「緊急事態宣言を出さないように頑張ります。」誰が言ったのか、そんな言葉がTVから聞こえてきました。この時、思い出したのが「失敗の本質」という1冊の本です。大東亜戦争の日本軍という組織の敗因を分析して、解説している本です。
今日は、終戦記念日。多くの命を犠牲にしたあの戦争から学んだハズのことを、75年の時を経て、今一度、現代の経済危機や組織の在り方と重ねて、「失敗の本質」をベースに見ていきます。
「失敗の本質」とは
日本軍の戦史研究者6名で、1984年に共著された書籍です。大東亜戦争は、最初から勝てない戦争であったのではないか?日本軍を一つの大きな組織として、もっとよい「勝ち方」「負け方」があったのではないか?という観点で、日本人の気質や独特の特性から敗因を解説しています。
奇しくも?小池東京都知事の座右の書らしいです。「奇しくも」と表してしまうくらい、現代のコロナ対策や組織の在り方は、日本軍という組織と重なります。
今回は、たくさんある共通点から3つだけ紹介します。※『「超」入門 失敗の本質』という「失敗の本質」のビジネス入門版も参考にしています。
失敗その1.目標達成につながらない勝利
日本軍も勝利をしていました。ですが、全体を通してその勝利は、「目標達成につながっていなかった」勝利でした。
例えば、南洋諸島で25の島に駐留していた日本軍に対して、米軍が上陸占拠したのはたった8つの島。つまり、残りの17島は日本軍を放置。結果、他の箇所で勝利したものもすべて無駄な勝利になりました。
なぜ、こんなことになったのでしょうか?それは、戦略があいまいだったからと言われています。日本軍は、全体的に戦略に欠けていました。戦術では、戦略を補うことはできません。
では、戦略とは何でしょうか?戦術との違いは?
■戦略・・・どうやって目的地まで行くか?(行き方、道順、方法)
■戦術・・・何を使っていくか?(そこにたどり着くための道具や武器)
例えば、コロナ。アベノマスクやGo to キャンペーンは戦術です。では、戦略は何なのでしょうか?むしろ、この場合、目的すらあいまいです。冒頭での「緊急事態宣言を出さないように頑張ります。」はまさに、目的がずれてしまっています。
感染者の減少→コロナの終息→経済の活性化。私は政治も医療もド素人なのでこの道順が正しいかはわかりませんが、全部、勝利していないですよね。緊急事態宣言も一時的に感染者が激減したので、勝利かもしれませんが、目標達成につながらなかった勝利と言えます。
目標達成につながる勝利とは、戦略を明確にすることです。銃をどれだけ磨いても、道順が険しい山道で、山登りの準備がないと越えられないなら、銃は邪魔なだけです。
失敗その2.ゲームのルールを変えられない
日本独特の特性としてあげられるのが、モノづくりと、それを継承し錬磨する文化と精神です。ある側面では日本の誇れる文化ですが、組織としてはどうでしょうか?
これを、「超入門失敗の本質」では「日本軍には、ある種独特の精強さを放つ要素がある。」と表現しています。超人的な猛特訓と練磨で身に付けたスキルです。このサムライ魂とも言うべき精神が、敗因の一つでもありました。なぜか?
日本軍の零戦の戦果を支えた要因に、空戦を極限まで追求した戦闘機を操れる、パイロットの高い技能があります。この戦闘の達人を猛特訓で作り出した日本軍に対して、米軍はどうしたか?
達人を不要とするシステムを生み出します。
・高い操縦技能がなくても、生き残れる飛行機の開発と戦術
・命中精度を極限まで高めなくても追撃できる砲弾
・夜間視力が高くなくても、敵を捕らえられるレーダー
現在、誰でも簡単に使える様々なITやWebシステムなどは、ほぼ海外のものです。FacebookもGoogleも、Amazonも、IT以外でも、マクドナルドもセブンイレブンも。今私が仕事で使っているアプリも、ほとんどアメリカのアプリです。翻訳されていないのでGoogle翻訳とにらめっこしながら使っています。日本に同じように簡単に使えて、プロっぽく見えるアプリがないので仕方ないです。
日本の昔からの美徳とされる継承し、鍛錬する精神も、組織という側面では敗因になります。ゲームのルールを変える、つまりゲームの状況に合わせて、大きく変化させてしまうと、一つのことに打ち込むことを美徳とする日本軍は、大きな変化に俊敏に対応することができません。
ゲームはルールを変えたものが勝ちです。
失敗その3.イノベーションを生み出せない
―イノベーションとは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」のこと。―※ウェキペディアより
この戦争で、米軍はレーダーを駆使します。実は、日本軍もレーダーの開発はしていました。その性能は米軍より優れていたという説もあります。が、開発科学者の努力とは裏腹に、日本軍人はバカげていると科学者が取り付けたレーダーを、取っ払ってしまいます。
イノベーションを生み出す3ステップ
ステップ①既存の指標の発見
レーダーが導入される前は目視でした。敵艦を探すために索敵機を飛ばし、先に敵を見つけ攻撃態勢が取れたほうが優位です。
ステップ②敵の指標の無効化
目視の際は、日本軍が一方的に攻撃することもありましたが、レーダー導入によって、200キロ先から日本軍は発見されて、米軍の一方的な勝利となります。
ステップ③新たな指標で戦う
日本軍が先に敵艦を発見できても、後から来る攻撃隊ははるか手前で発見され、先回りされてしまいます。新しい、レーダーという指標が戦闘を支配することになりました。
なぜ、日本人はイノベーションを生み出せないのでしょうか?島国、農耕民族が理由の一つかもしれませんが、変化に対する対応がとても苦手です。日本人は性能を上げることは、とても得意です。レーダーの例でもあったように、性能だけなら米軍に劣ってはいませんでした。明暗を分けたのは、それを使ったか、使わなかったかの違いです。
でも、こんな例もあります。カメラのフィルム会社の大手、アメリカのコダックと日本の富士フィルム。デジタルカメラが出て、両社ともフィルム売り上げが激減します。アメリカのコダックはそのまま2012年1月破産法の申請をします。対して、富士フィルムはデジタルカメラに対応し2010年度の連結売上高は2兆2711億円。現在ではビューティー、ヘルスケア部門で人気商品も出しています。
変化せず、性能だけ上げてもイノベーションは生まれません。「新しい」変化を取り入れてイノベーションを生み出してみましょう!
まとめ
日本軍の最大の敗因は、目的、目標の曖昧さでした。曖昧さゆえに、目的を見失ってしまいました。本来、戦争を止めるための戦いだったはずが、領地を広げること、挙句の果てには命を犠牲にしてまで、勝つことを目的にしてしまったことです。
これは、現代社会の組織でも、当てはまることです。失敗の本質を理解し、今の危機的な状況にも活かしたいですね。今日は終戦記念日。まずは戦没者を追悼し、平和を願い、正午の黙とうをします。